📌 この記事はこんな方におすすめです
- 実家や自宅の庭木の名前や由来を知らずに過ごしている方
- 古い庭のある家に住んでいる方
- 何気ない日常の中に「調べる楽しさ」を見つけたい方
我が家の庭は、築61年になる。
61年と言えば、人間なら還暦を過ぎてそろそろ再雇用かどうかの瀬戸際だ。その長い年月、この庭は黙ってそこにあり、親の代からずっと、庭師さんの手によって維持されてきた。
正直に言って、これまでの私にとって庭の木々は「緑色の何か」でしかなかった。
季節が巡れば茂り、夏になれば職人さんの剪定バリカンの音が響き、秋には落ち葉が出る。その程度の認識である。
だが今日、ふと庭を眺めているうちに疑問が湧いた。
「……で、この木たちは一体何なんだ?」
気になって片っ端から調べてみることにした。そう、「調べる」のである。自分の小さな「なんだろう?」に、調べることで事実(事象)を与えていくのだ。
「千両・万両・南天」という完璧すぎる縁起担ぎのコンボ


(📷 ①:千両と万両)
まず気になったのは、足元にわさわさ生えている赤い実をつけた植物たちだ。
調べてみると、センリョウ(千両)、マンリョウ(万両)、そして**ナンテン(南天)**だった。
なぜ「千」と「万」で差がついているのか? 気になってさらに掘り下げてみると、センリョウは葉の上に威張って実をつけ、マンリョウは葉の下に奥ゆかしく実を垂らす。昔の人は「下向きにしっかり実をつけ、冬の間も鳥に食べられにくく実が長く残る」奥ゆかしさに価値を見出し、こちらを「万両」と名付けたらしい。実のつき方ひとつで千と万の差がつくとは、日本人の感覚はなかなかシビアだ。

(📷 ②:ナンテン)
さらに「難を転じる」のナンテンまで揃っている。
「難を転じて、千両・万両の富を得る」。我が家の足元には、完璧すぎる縁起担ぎのフルコースセットが鎮座していたのだ。
モップのような緑と、秋の香りの黒幕
足元の謎が解けたので、視線を少し上げてみる。
そこにいたのは、糸のような葉が垂れ下がった不思議な木だ。

(📷 ③:ヒヨクヒバ(糸ヒバ)の写真)
調べてみると、これは**ヒヨクヒバ(糸ヒバ)**というらしい。漢字で書くと「比翼ヒバ」。
中国の伝説に出てくる、夫婦の絆を象徴する一目一翼の鳥「比翼の鳥」から名付けられたそうだ。糸のように柔らかく垂れ下がる枝葉が、鳥の羽のように見えたことからこの名がついたという。ただの「モップみたいな木」だと思っていたのに、急にスケールの大きな伝説が飛び出してきて面食らう。

(📷 ③:キンモクセイ)
その隣にどっしりと控えているのは、厚みのある葉を茂らせた**キンモクセイ(金木犀)**だ。
中国原産のこの木、実は日本に届いた歴史が面白い。江戸時代に雄株(オス)だけが日本に輸入されたため、日本のキンモクセイは実を結ばず、すべて挿し木で増やされたクローンなのだそうだ。秋になると街じゅうを覆い尽くすあの甘い香りの主たちは、実はみんな「同じオスの木」だったというわけだ。

(📷 ④:ドウダンツツジとカエルの置物)
さらにその足元には、丸く綺麗に仕立てられたドウダンツツジが寄り添い、その陰からは誰が置いたのか緑色のカエルの置物が「無事カエル」と言わんばかりに顔を出している。
61年分の「まあまあ縁起でも担いでおくか」

(📷 ⑤:松やイヌマキなど庭全体)
頭上を仰げば、見事な枝ぶりのクロマツ(松)と、まっすぐに仕立てられたイヌマキが庭全体をビシッと引き締めている。
知識ゼロの状態で見ていた時は、単なる「古い家の庭」だった。
けれど調べて事実を知ると、61年前(あるいはその途中)にこの庭を作った誰かの顔が浮かんでくる。
「せっかくだから南天と千両・万両を並べておくか」
「夫婦円満を願って比翼ヒバも植えちゃおう」
「秋にいい香りがするようにキンモクセイも欲しいな」
「松とマキで格調高くして、遊び心でカエルも置いとくか」
そこには、ここで暮らしてきた人たちのささやかな願いや、ちょっとしたお茶目心が、地層のように重なっていたのだ。
自分の「綺麗だな」という感想(心象)なんて、他人からすればどうでもいい。
けれど、「なぜこれがここに植わっているのか」を調べていくと、そこには61年分の人間臭い物語があった。
庭の木々の名前と由来を知ったことで、私は今日、自分の家の庭の「一番最初の熱心な読者」になれたような気がする。
【追記】
今日は、猛暑の中で庭師さんに来ていただいた。
炎天下の中、職人さんが手際よくハサミを入れ、ボサボサだった緑がみるみるうちに美しい「職人の作品」へと整えられていく。この暑さの中で黙々と庭に向き合う姿には、本当に頭が下がる思いだ。
61年前の誰かの願いと、今の私の気づき、そして今日の庭師さんの汗。
この庭は、そうやっていろんな人の手と時間を経て、今日も青空の下でさっぱりと風を通している。

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