はじめに
「最近の若手は、褒めて伸ばすのが大切だ」
ビジネス書や管理職研修で、耳にタコができるほど言われる言葉です。しかし、40代・50代のベテラン管理職の中には、「そうは言われても、どう褒めていいか分からない」「出来がいまいちなのに、お世辞で褒めるのは無理がある」とモヤモヤを抱えている方も多いのではないでしょうか。
特に、自分が若い頃に「厳しく叱られて育った世代」にとって、近年の「褒める一辺倒」の指導法には強い違和感を覚えがちです。
本記事では、かつて「基本は叱るスタイル」だった筆者の失敗談と小さな成功体験をベースに、アドラー心理学の知見を用いた「失敗しない部下育成のコツ」を解説します。
「褒める」の先にある「勇気づけ」と「感謝」のパラダイムシフトを取り入れることで、部下との関係性が劇的に変わり、マネジメントのストレスから解放される方法をお届けします。
1. 我々の “褒められなかった時代” と現代のギャップ
一昔前のビジネス社会において、仕事で上司から褒められる機会など、ほとんどありませんでした。
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「期待をしているからこそ、厳しく叱るんや」
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「叱ってもらえるうちが華だと思え」
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「(定時の15分前に来て)なんで時間通りに来るんだ、遅い!」
今であれば完全にパワーハラスメント(パワハラ)と受け取られかねない理不尽な環境を、必死に耐え抜いてきたベテラン社員は少なくありません。
このような環境で育つと、自分がいざ上司になったとき、「褒め方」も「褒めるタイミング」も分からないという大きな壁にぶつかります。結果として、自分がされてきたような「基本は叱る(悪いところを指摘する)スタイル」を無意識に部下へ適用してしまい、関係性がギクシャクするという失敗パターンに陥りがちです。
モヤモヤの正体:褒めるハードルを下げるべきなのか?
時代が変わり、「部下のやる気を引き出すには褒めるべき」と言われても、進捗が悪かったり、仕上がりが期待値に届かなかったりすれば、素直に褒めることはできません。
「じゃあ、無理やり褒めるハードルを下げて、お世辞を言えばいいのか?」
その疑問に対する答えは「NO」です。無理な称賛は部下に見透かされ、かえって不信感を生みます。重要なのは、褒める基準を下げることではなく、コミュニケーションの「観点」を変えることにありました。
2. 視点を変えたことで起きた「小さな成功体験」
ある日のこと、部下の作業進捗が以前より早く、仕上がりも良い状態でした。少し嬉しかったので、いつもなら「まぁこれくらい普通か」とスルーするところを、思い切って言葉にして声をかけてみたのです。
「今日の仕上がり、前より良くなってるね。動きもスムーズでいい感じやったよ」
すると、普段はあまり感情を表に出さない部下が、「えっ、ありがとうございます!」と、少し照れながらも非常に嬉しそうな表情を浮かべました。
これは、私にとっての小さな成功体験でした。部下の反応が変わっただけでなく、不思議と声をかけた自分自身の気持ちも少し軽くなったのです。「観点を少し変えるだけで、認めてあげられるポイントは結構あるものだな」という気づきを得た瞬間でした。
3. アドラー心理学が教えてくれた「褒める」の罠と「勇気づけ」の本質
しかし、「部下を褒める」という行為を続ける中で、どこか拭いきれない少々の違和感(上から目線で品定めしているような感覚)が残っていました。その違和感に明快な答えをくれたのが、「アドラー心理学」でした。
実は、アルフレッド・アドラーは「褒めること」に対して批判的な立場をとっています。なぜなら、褒めるという行為には以下のようなリスクが隠されているからです。
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上下関係の固定化: 「上の立場の人が、下の人の能力を評価・裁断する」という縦の関係を生みやすい。
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承認欲求への依存: 部下が「上司に褒められること」を目的に行動するようになり、自律性が失われる。
そこでアドラー心理学が推奨するのが、評価ではなく「勇気づけ(Encouragement)」と「感謝(共同体感覚)」のアプローチです。
| 観点 | ❌ 縦の関係(評価・褒める) | ✅ 横の関係(勇気づけ・感謝) |
| 注目する点 | 結果、成果、能力(100点か否か) | 過程、努力、工夫、存在そのもの |
| かける言葉 | 「よくできた」「君は優秀だ」 | 「工夫が素晴らしい」「助かった、ありがとう」 |
| もたらす効果 | 評価を気にするようになる | 自信が生まれ、自発的に行動する |
4. 今日から使える!アドラー流「言葉がけ」実践集
部下指導だけでなく、家庭や自分自身への向き合い方において、「失敗しない言葉がけ」の具体例をまとめました。
① 職場編(マネジメント)
成果の良し悪しという「結果」だけを評価するのではなく、そこに至る「プロセス」や「組織への貢献度」を言葉にします。
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❌ NGな褒め方:「今月の売上目標を達成した君は、本当に優秀だね」
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✅ OKな勇気づけ&感謝:
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「あの売場の見せ方を工夫してくれたから、お客様が喜んでいたよ」
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「毎日の丁寧な仕込み(準備)のおかげで、みんながスムーズに動けて助かっているよ」
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「今回の失敗も、次の挑戦へのいい経験になったね。チャレンジしてくれて頼もしいよ」
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② 家庭編(子育て・夫婦関係)
「やって当たり前」という思い込みを捨て、存在や努力に対して横の目線から感謝を伝えます。
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❌ NGな褒め方:「テストで100点取るなんて、お前は本当に頭が良いな」
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✅ OKな勇気づけ&感謝:
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「毎日コツコツ机に向かって勉強を続けていた姿勢が、すごく素敵だったよ」
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「お皿を片付けてくれてありがとう。本当に助かったよ」
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③ セルフケア編(自分への言葉がけ)
過度な自己批判はメンタル不調の引き金になります。管理職自身も、自分に対して評価ではなく勇気づけを行いましょう。
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❌ NGな自己評価:「今月はまだ成果が出ていない。なんて自分は無能なんだ」
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✅ OKな勇気づけ&感謝:
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「結果はこれからだけど、昨日より一歩前進できた。自分の努力を認めよう」
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「結果が伴わなかったとしても、新しい方法に挑戦できたのは勇気がある証拠だ」
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「毎日遅くまで頑張って動いてくれてありがとう、自分の体」
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5. 【失敗しないコツ】「部下」ではなく「後輩」として接する
アドラー心理学の「褒めない教育」とは、決して冷たい放任主義ではありません。相手を「上から評価する対象」として見るのではなく、「対等な仲間(共同体のメンバー)」として尊重する温かい言葉がけです。
管理職が部下指導で失敗しないための最大のコツは、組織上の役割は上下であっても、人間としては「対等な横の関係」であるとマインドセットを切り替えることです。
私自身、“部下”という硬い枠組みで捉えるよりも、学生時代の部活にいたような“頼もしい後輩”という感覚で接する方が、はるかに自然でしっくりくることに気づきました。
評価者として「褒めるポイント」を探そうと身構えるのをやめ、同じ目標に向かう仲間として「プロセスの工夫を認め、感謝(ありがとう)を伝える」。
この小さなパラダイムシフトが、あなたのチームを自立型組織へと変え、あなた自身のマネジメントの負担を驚くほど軽くしてくれるはずです。
今週は、身近な部下や、あるいは家族に対して、1日1回「ありがとう」の感謝を伝えてみることから始めてみませんか?
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「ノー」を「イエス」に変える技術や、管理職として部下の心を動かす具体的な言葉の作り方が体系的にまとめられており、明日からのコミュニケーションにすぐ活かせる実践書です。


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